
監修
柄澤 玄宏(からさわ整形外科クリニック院長)
日本整形外科学会認定専門医。東京医科大学卒。
「半月板が傷んでいます」——MRI画像を見せられながらそう言われた経験がある方は少なくないでしょう。
しかし半月板損傷と一口に言っても、スポーツ外傷と加齢による摩耗では状況がまったく異なります。まずは基本的な知識を整理します。
半月板とは何か——膝のクッション
半月板は、大腿骨(だいたいこつ)(太ももの骨)と脛骨(けいこつ)(すねの骨)の間にある三日月形の軟骨(なんこつ)組織です。内側と外側に1枚ずつ、計2枚あります。
素材は線維軟骨(せんいなんこつ)——丈夫な繊維が密に絡み合った構造で、関節の表面を覆う軟骨(硝子軟骨(しょうしなんこつ))とは別のタイプです。
主な役割は3つ。体重を広い面積に分散させる「荷重分散」、歩行や走行時の衝撃を吸収する「衝撃吸収」、そして大腿骨と脛骨の適合性を高めて膝関節を安定させる「関節安定化」です。
なかでも関節安定化の機能は特に重要です。半月板は大腿骨と脛骨の間に「くさび」のようにはまり込み、骨同士がずれるのを防いでいます。半月板は膝にかかる荷重の40〜70%を担っているとも推定されています。

また、日常の動作で意外に多いのが膝をねじる動きです。方向転換、あぐら、しゃがみ立ちなど、膝を曲げた状態でねじる癖があると半月板への負荷が大きくなります。特に加齢で線維がもろくなった半月板は、こうしたねじれの繰り返しでじわじわと傷みやすくなります。
半月板の血液供給には大きな偏りがあります。外周の約1/3(レッドゾーン)には血管が入り込み、比較的良好な血流があります。しかし内側の約2/3(ホワイトゾーン)には血管がほとんどなく、関節液からの拡散に栄養を頼っています。この血液供給の差が、損傷後の治癒力に直結します。レッドゾーンの断裂は自然治癒の可能性がありますが、ホワイトゾーンの断裂は自然修復が難しいとされています。
急性型と慢性型(変性断裂)
急性型(外傷性断裂)
スポーツ中のひねり動作、接触プレー、急な方向転換などで正常な半月板に急激な力がかかって損傷するタイプ。比較的若い年代に多く、受傷の瞬間が明確です。内側半月板の損傷が多い傾向にあります(内側は外側より可動域が小さく、挟まれやすい)。
慢性型(変性断裂)
加齢に伴って半月板の線維構造が劣化し、日常的な動作の中で徐々に傷んでいくタイプ。明確な受傷のきっかけがないことが多く、「いつの間にか膝が痛くなった」というパターン。40代以降では非常に一般的です。
断裂のパターンにも種類があり、それぞれ臨床的な意味が異なります。「縦断裂」は半月板の線維に沿った方向の裂け目で、レッドゾーンに及ぶ場合は縫合修復の対象になります。「水平断裂」は半月板を上下に分割する方向の裂け目で、変性断裂で最も多いパターンです。
「放射状断裂」は線維を横断する方向に裂けるもので、荷重分散機能への影響が大きい断裂です。
「バケツ柄断裂」は縦断裂が大きく進行し、半月板の一部がめくれ上がった状態です。この場合、めくれた部分が関節面の間に挟まり、膝が突然ロックして動かせなくなることがあります。「複合断裂」は複数のパターンが組み合わさったもので、変性が進んだ半月板に多く見られます。

40代以降はほぼ全員に摩耗がある
ここが非常に重要なポイントです。MRI研究では、40〜50代以降の膝をランダムに撮影すると、症状の有無にかかわらず大多数に何らかの半月板の変性所見が見られることが報告されています。
2008年の大規模研究※1では、50歳以上の991人の膝のMRIを分析したところ、61%に半月板の断裂が見つかり、そのうち約3分の2は無症状でした。
つまり、半月板に傷があること自体は「異常」というより、白髪やシワのように年齢相応の変化と言えます。この研究の対象者は膝に特別な問題を抱えていない一般の人です。膝の痛みがない人の35%にも半月板断裂が見つかりました。60歳以上に限ると、この割合はさらに高くなります。
典型的な症状
- 膝の痛み — 膝の内側または外側に局在することが多い。歩行、階段、しゃがむ動作で悪化。
- 膝の腫れ(関節水腫) — 損傷に対する炎症反応として関節液が増加する。いわゆる「膝に水が溜まる」状態。
- ロッキング — 損傷した半月板の一部が関節の間に挟まり、膝が一時的に動かせなくなる。全ての損傷で起きるわけではない。
- クリック音・引っかかり感 — 膝を曲げ伸ばしした時にコキッという音や引っかかる感覚がある。
- 膝くずれ — 歩行中に膝がガクッと不安定になる。筋力低下に起因することが多い。
診察室での検査としては、膝を曲げた状態で下腿(かたい)を回旋させてクリック音や痛みの誘発を確認する検査や、うつ伏せで膝を曲げて下腿を回旋しながら圧迫する検査が広く行われています。これらの徒手検査(としゅけんさ)は外来で特別な機器なしに実施できますが、全ての損傷を検出できるわけではありません。
診断方法——MRI・徒手検査
確定診断にはMRIが標準的です。断裂パターンや範囲を画像で正確に把握できます。徒手検査は外来で簡便に行える一次的な確認手段ですが、MRIほどの精度はありません。
ただし、全ての膝の痛みにMRIが必要なわけではありません。症状・年齢・受傷のきっかけを総合して判断し、まず保存療法(手術しない治療)を開始して経過を観察するのが合理的なケースも多くあります。MRIで損傷が見つかっても、それが必ずしも痛みの原因とは限らない——この点は非常に重要です。
まとめ——半月板損傷の基礎知識
半月板は膝の荷重分散・衝撃吸収・関節安定化を担う三日月形の軟骨組織です。急性型(スポーツ外傷)と慢性型(加齢による変性断裂)があり、対処法が異なります。
40〜50代以降の大多数にMRI上の半月板変性が見られ、その多くは無症状です。半月板の外側1/3(レッドゾーン)は血流があり自然治癒の可能性がある一方、内側2/3(ホワイトゾーン)は自然修復が難しい構造です。
MRIで損傷が見つかっても、それが痛みの原因とは限りません。半月板の変性は加齢に伴う自然な現象のひとつであり、損傷があること自体を過度に心配する必要はないのです。
監修
柄澤 玄宏(からさわ整形外科クリニック院長)
東京医科大学医学部卒業。同大学整形外科教室に入局後、東京医科大学霞ヶ浦病院、都立松沢病院などで整形外科診療に従事し、外来医長を務める。総合新川橋病院整形外科非常勤を経て、からさわ整形外科クリニック院長に就任。
日本整形外科学会認定専門医、日本医師会認定産業医。日本AKA研究会会員。
参考文献・ソース
- ※1 2008年に発表された50歳以上の991人の膝を対象としたMRI研究。N Engl J Med. 2008;359:1108-1115.





