半月板が損傷していても痛くない人がいる理由

半月板が損傷していても痛くない人がいる理由

柄澤 玄宏

監修

柄澤 玄宏(からさわ整形外科クリニック院長)

日本整形外科学会認定専門医。東京医科大学卒。

「半月板が傷んでいるから膝が痛いんだ」——診断を受けた方の多くがそう考えます。

しかし、整形外科の分野では「損傷=痛みの原因」という図式に疑問を投げかける知見が蓄積されています。この記事は半月板損傷で悩んでいる方にとって、最も重要な話かもしれません。

損傷≠痛み——整形外科医も認めるパラドックス

半月板損傷と痛みの関係:損傷があっても痛みがない人が多い

2008年の大規模研究※1が示した事実は衝撃的です。50歳以上の61%にMRI上の半月板断裂があり、そのうち約3分の2は無症状。つまり半月板が傷んでいても、痛くない人の方が多いのです。

同様の知見は他の研究※2でも再現されています。50〜90歳の変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)を持たない地域住民のMRIを分析したところ、35%に半月板断裂が確認されました。年齢が上がるほど割合は高くなり、70歳以上では約半数に何らかの変性所見が見られました。

つまり、これらの研究は「半月板の損傷」と「膝の痛み」が一対一で対応しないことを明確に示しています。整形外科の臨床現場でもこの認識は広まっており、半月板に損傷があっても、痛みなく日常生活やスポーツを送っている方は大勢います。

同じ膝なのに日によって痛みが違う理由

ここで一つ、身近な観察を考えてみてください。

同じ「歩く」という動作なのに、調子が良い日はほとんど痛くない。疲れている日や天気が悪い日は痛みが強い。

半月板の構造的な損傷は、良い日も悪い日も変わりません。MRIを毎日撮っても、断裂の形は同じです。にもかかわらず痛みの強さが日によって変わる。

この事実は、痛みの主な原因が構造(半月板)ではなく、その日の体の状態、特に筋肉の緊張度や血流に依存していることを強く示唆しています。

日常的に観察される現象をもう少し挙げてみましょう。「雨の日は膝が痛い」という訴えは非常に多いですが、気圧の変化で半月板の損傷が悪化するわけではありません。気圧低下は自律神経に作用し、筋肉の緊張度や血流に影響を与えます。

朝の起き上がりで膝がこわばるのは、就寝中の長時間の不動で筋肉が硬直するためです。長時間のデスクワーク後に膝が痛むのも同様で、同じ姿勢の維持が膝周囲の筋肉を緊張させます。これらは全て、痛みの強さが筋肉の状態に左右されていることの日常的な証拠です。

ゆらしの視点——膝を捻るクセと筋肉の硬さ

ゆらしでは、膝の痛みの直接的な原因を「膝を捻って使うクセ」にあると考えています。加齢による半月板の変性で関節構造の安定性が低下し、いままでは耐えられていた無理な使い方——特に膝を捻る動き——に耐えられなくなって痛みが出る、というしくみです。

この負担のかかる使い方に反応して、体は膝を守ろうとして周囲の筋肉を反射的に固めます。大腿四頭筋(だいたいしとうきん)(太もも前面)、ハムストリング(太もも裏)、腓腹筋(ひふくきん)(ふくらはぎ)——膝関節を取り囲む複数の筋肉群が「防御モード」に入ります。

この筋性防御が短期間で解消されれば問題ありません。しかし慢性化すると、筋肉の慢性的な緊張 → 血流の低下 → 老廃物の蓄積 → 痛みを引き起こす物質の産生 → さらなる筋緊張、という悪循環が形成されます。痛みの根源は、もはや半月板の損傷そのものではなく、この「膝捻れのクセ」と「筋性防御の悪循環」の2つにあるのです。

損傷→筋性防御→慢性化のメカニズム

1

半月板が損傷する

急性の外傷、または加齢による変性

2

体が膝を守ろうとして筋肉を固める

筋性防御(体が自分を守ろうとして筋肉をこわばらせる反応。本来は一時的)

3

筋緊張が長期化する

防御反応が解除されず、慢性的な過緊張になる

4

血流が低下し痛みの悪循環が形成される

血行不良 → 発痛物質蓄積 → さらに筋緊張 → さらに血行不良…

ステップ1(損傷)は過去の出来事であり、変性断裂の場合はもう起きてしまったことです。しかしステップ2〜4(筋緊張の慢性化と悪循環)は現在進行中のプロセスであり、介入の余地がある。ここが保存療法の狙い目です。

つまり、この悪循環は損傷後の数週間で確立し、介入なしでは数年にわたって持続し得ます。慢性化が長引くほど筋肉の緊張パターンは「定着」していきます。逆に言えば、早い段階で悪循環を断ち切ることができれば、回復はより速くなります

損傷→筋性防御→血流低下→発痛物質蓄積→さらなる筋緊張という慢性化の悪循環

痛くなる人と痛くならない人の違い

同じように半月板が傷んでいても、痛みが出る人と出ない人がいます。この違いはどこにあるのでしょうか。

項目痛みが出にくい人痛みが出やすい人
膝周囲の筋肉柔軟で血流が良い慢性的に硬く、血流が低下
防御反応損傷後に自然に解除される筋性防御が慢性化している
動作の癖膝に過度な負担がかかりにくいねじれや偏った使い方がある
痛みが出にくい人と出やすい人の比較:筋肉の柔軟性・防御反応・動作の癖の違い

半月板の構造そのものを修復しなくても、筋肉の硬さを解消し血流を改善すれば、痛みは軽減できる可能性がある——これがこのパラドックスの最も重要なポイントです。

もちろん全てのケースに当てはまるわけではありません。損傷した半月板の断片が関節内で物理的に挟まっている場合(真のロッキング)などは、構造的な問題として外科的な対応が必要です。しかし、特に変性断裂(40代以降に多い慢性型)においては、筋肉の状態を改善するアプローチが有効であるケースは多いと考えています。

まとめ——半月板損傷と痛みのパラドックス

半月板損傷があっても痛みがない人の方が多い——これは複数の大規模研究※1 ※2で示された事実です。痛みの強さは日によって変わりますが、半月板の構造は変わりません。

つまり、多くの場合、膝の痛みの直接原因は半月板の損傷そのものではなく、筋肉の慢性的な過緊張と、そこから生まれる悪循環にあります。

筋肉の柔軟性と血流を回復すれば、半月板の構造を修復しなくても痛みは軽減できる可能性がある。特に変性断裂(加齢による慢性型)では、筋肉の状態改善が有効なケースが多いのです。

柄澤 玄宏

監修

柄澤 玄宏(からさわ整形外科クリニック院長)

東京医科大学医学部卒業。同大学整形外科教室に入局後、東京医科大学霞ヶ浦病院、都立松沢病院などで整形外科診療に従事し、外来医長を務める。総合新川橋病院整形外科非常勤を経て、からさわ整形外科クリニック院長に就任。

日本整形外科学会認定専門医、日本医師会認定産業医。日本AKA研究会会員。

参考文献・ソース

  • ※1 2008年に発表された50歳以上の991人の膝を対象としたMRI研究。N Engl J Med. 2008;359:1108-1115.
  • ※2 2012年に発表された変形性膝関節症のない成人を対象としたMRI研究。BMJ. 2012;345:e5339.

関連するコラム