半月板損傷の保存療法——手術しない選択肢が見直されている理由

半月板損傷の保存療法——手術しない選択肢が見直されている理由

柄澤 玄宏

監修

柄澤 玄宏(からさわ整形外科クリニック院長)

日本整形外科学会認定専門医。東京医科大学卒。

「半月板が傷んでいるなら手術するしかない」——そう思い込んでいる方は少なくありません。

しかし近年、整形外科の分野では保存療法(手術しない治療)の有効性が大きく見直されています。どんな場合に手術が必要で、どんな場合に保存療法が選択肢になるのかを整理します。

保存療法が再評価されている背景

簡単に言えば、「変性断裂(加齢による慢性型)の半月板損傷に対しては、手術をしても手術しなくても結果に大きな差がない」という研究結果が複数報告されたことがきっかけです。

かつては半月板損傷が見つかれば、関節鏡(かんせつきょう)手術(小さなカメラを入れて損傷部を切除・縫合する手術)が第一選択でした。しかし2010年代以降、複数の大規模な比較試験※1 ※2が従来の常識を覆しました。

特に注目されたのは、2013年に発表されたフィンランドの研究※1です。変性断裂の患者を「関節鏡手術を行うグループ」と「麻酔をかけて皮膚を切るだけで何もしないグループ」に分けたところ、1年後の痛みや機能の改善度に有意な差がなかったのです。

この結果は医療界に衝撃を与えました。以降「変性断裂に対する関節鏡手術は、まず保存療法を試みてから検討すべき」という方針が主流になりつつあります。

同年に発表された別の研究※2も同様の結論を支持しています。変性半月板断裂のある患者351名を、手術+理学療法(りがくりょうほう)のグループと理学療法だけのグループに分けて比較したところ、両グループ間に臨床的に意味のある差は認められませんでした。つまり、変性断裂に対しては理学療法だけでも手術と同等の効果が得られる可能性が高いということです。

手術が検討されるケース

保存療法が再評価されているとはいえ、手術が必要なケースは確実に存在します。

  • 半月板の断裂片による膝のロック——ずれた断裂片が関節内に挟まり、膝が物理的に動かせなくなる場合。機械的な障害が疑われるため、手術の必要性を含めた評価が必要になる
  • バケツ柄断裂——半月板が大きく裂けてめくれ上がり、関節内で引っかかりを繰り返すことがある
  • 十分な保存療法(3〜6ヶ月)を行っても改善が見られない場合
  • 前十字靭帯損傷など他の外傷と合併している場合——同時に修復することが推奨されるケースがある

手術の方法としては、損傷部を切り取る「半月板部分切除術」と、損傷部を縫い合わせる「半月板縫合術」があります。

縫合術の成功率は部位によって大きく異なり、血流のあるレッドゾーンでは80〜90%の良好な治癒が期待できますが、血流の乏しいホワイトゾーンでは50〜60%にとどまります。現実的には、変性断裂のほとんどはホワイトゾーンに及んでいるため、縫合術よりも部分切除術の方が多く行われています

手術しても痛みが残ることがある理由

関節鏡手術で損傷部位を綺麗に処理しても、痛みが完全に消えない患者は一定数います。半月板の構造的な損傷と痛みは必ずしも一致しないためです。

手術で半月板の構造的な問題を解決しても、長期間にわたって形成された筋肉の硬さは手術では解消されないのです。膝周囲の筋性防御(きんせいぼうぎょ)(体が自分を守ろうとして筋肉を固める反応)が慢性化していた場合、術後のリハビリでこの筋肉の硬さを解消しない限り、痛みが残る可能性があります。だからこそ、術後のリハビリが極めて重要です。

長期的な視点ではさらに重要なデータがあります。半月板部分切除術を受けた患者の25〜50%以上が、10〜15年以内に変形性膝関節症を発症するリスクがあるという複数の追跡研究があります。

つまり、保存療法が優先される理由は「手術が不要」というだけでなく、「半月板を残すことが将来の膝の健康を守る」という観点からも支持されているのです。

膝に水が溜まるのはなぜか

「膝に水が溜まった」と表現される状態は、関節内に通常より多くの関節液がたまった「関節水腫」です。半月板損傷などによって滑膜が刺激され、関節内に炎症が起こると、関節液が増えることがあります。

関節液には、関節面を滑らかに動かす役割があります。ただし、水がたまること自体が半月板を修復するわけではありません。腫れや動かしにくさが続く場合は、関節内の炎症や機械的な刺激の原因を確認することが大切です。

整形外科で行う穿刺(せんし)は、たまった関節液を抜いて症状を和らげたり、関節液を検査したりするための処置です。ただし、関節内の炎症や機械的な刺激が続いていると、再び水がたまることがあります。治療では、水を抜くかどうかだけでなく、その原因に応じた対応が必要です。

関節液が増えた原因が続いていると、穿刺後に再び水がたまることがあります。穿刺の必要性や頻度は、症状や原因を確認したうえで医師が判断します。

膝に水が溜まるメカニズム:損傷・炎症→関節液の増産→関節水腫の流れ

半月板は再生するのか

半月板の再生能力は部位によって大きく異なります。

外周の約1/3(レッドゾーン)には血管が通っており、この部分の断裂は自然治癒や縫合修復が期待できます。一方、内側の約2/3(ホワイトゾーン)には血管がほとんどなく、自然修復は困難です。

再生を促すうえで最も重要なのは、半月板にかかる負荷を減らすことです。膝周囲の筋肉の硬さを取り除き、ねじれや偏った使い方を修正することで、半月板への圧迫が軽減されます。血流のあるレッドゾーンでは、この環境を整えることが自然治癒の後押しになります。

つまり、半月板が完全に元通りになるかどうかは、痛みの改善とは別の問題です。膝にかかる負荷や使い方を見直し、周囲の筋力や柔軟性を整えることで、痛みが軽減する場合があります。画像で半月板の変化が見つかっても症状のない人がいることからも、画像所見と痛みは必ずしも一致しません。

保存療法の考え方

保存療法の柱は主に以下の3つです。

  • 筋肉の硬さの解消——膝周囲の防御的な筋緊張を緩め、血流を改善する
  • 筋力の維持・回復——太もも前面・裏面の筋力を維持し、膝の安定性を確保する
  • 動作パターンの修正——ねじれや偏った使い方を改善し、膝への負荷を減らす
保存療法の3本柱:筋肉の硬さの解消・筋力の維持回復・動作パターンの修正

重要なのは「半月板を治す」ことではなく、「半月板の損傷があっても痛みなく生活・活動できる状態を作る」こと。構造と機能を分けて考えることが、保存療法の出発点です。

なかでもリハビリの継続が保存療法の成否を決める最も重要な要素です。筋肉の硬さを取り除くだけでなく、日常動作の中で膝に負担がかかりにくい使い方を体に覚えさせるには、繰り返しの取り組みが欠かせません。保存療法は「何もしない」治療ではなく、積極的に体を変えていく過程です。

変性半月板断裂については、手術と運動療法を比較した複数の研究で、痛みや機能の改善に大きな差がみられないことが報告されています。そのため、ロッキングなどの機械的な障害がなければ、まず運動療法などの保存療法が検討されます。

まとめ——半月板損傷と保存療法

複数の大規模比較試験※1 ※2により、変性断裂への関節鏡手術は保存療法と比べて優位性がないことが示されました。一方、半月板の断裂片が挟まり膝が動かせない場合など、機械的障害が疑われるときは手術が検討されます。

手術で半月板の構造を修復しても、痛みが完全には消えないことがあります。膝に水が溜まる背景には滑膜の炎症や関節内の機械的な刺激があるため、原因に応じた対応が重要です。

保存療法の目標は、半月板の画像上の変化だけでなく、痛みを抑えて生活や活動に戻れる状態を目指すことです。治療法は断裂の種類や症状に応じて選びます。

柄澤 玄宏

監修

柄澤 玄宏(からさわ整形外科クリニック院長)

東京医科大学医学部卒業。同大学整形外科教室に入局後、東京医科大学霞ヶ浦病院、都立松沢病院などで整形外科診療に従事し、外来医長を務める。総合新川橋病院整形外科非常勤を経て、からさわ整形外科クリニック院長に就任。

日本整形外科学会認定専門医、日本医師会認定産業医。日本AKA研究会会員。

参考文献・ソース

  • ※1 2013年にフィンランドで発表された変性半月板断裂の手術 vs 偽手術のランダム化比較試験。N Engl J Med. 2013;369:2515-2524.
  • ※2 2013年に発表された手術 vs 理学療法のランダム化比較試験(351名対象)。N Engl J Med. 2013;368:1675-1684.

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