
監修
柄澤 玄宏
ゆらし療法についての臨床経験をもとに記事の医学的内容を確認しています。
スポーツ中に突然ふくらはぎに激痛が走った。「ブチッ」という音がして走れなくなった——肉離れの瞬間は、多くの人にとって衝撃的な体験です。
この記事では筋肉の中で実際に何が起きているのか、重症度の分類、起きやすい条件まで、基本的な知識を整理します。
肉離れとは何か——筋線維レベルで見ると
肉離れ(筋挫傷(きんざしょう))は、筋肉に急激な力がかかって筋線維が断裂するケガです。筋肉を構成する細い線維(筋線維)の一部が切れた状態で、損傷の範囲によって微細な部分断裂から完全断裂まで幅があります。
筋肉は、細い糸のような「筋線維(きんせんい)」が集まってできています。肉離れでは、この筋線維の一部に傷がついたり、切れたりします。
筋線維の中には、筋肉を縮めるためのさらに細かな仕組みがあります。専門的には筋原線維(きんげんせんい)やサルコメア(筋節)と呼ばれ、ここが伸び縮みすることで筋肉は動きます。
肉離れが起きる瞬間は、筋肉が強く引き伸ばされる力に耐えきれず、こうした細かな構造に損傷が生じます。小さな損傷が広い範囲に起こると、筋線維の断裂として症状に現れ、痛みや出血、力の入りにくさにつながります。
損傷は筋線維だけにとどまらず、筋線維を包む結合組織(筋内膜(きんないまく)・筋周膜(きんしゅうまく))や、筋肉と腱の移行部(筋腱接合部(きんけんせつごうぶ))にも及ぶことがあります。

受傷の瞬間に「ブチッ」「バチン」という音や感覚を伴うことが多く、その場で走行不能になるのが典型的な症状です。内出血を伴うケースでは、受傷部位が数日後に紫色に変色します。断裂した血管から漏出した血液が重力に従って下方に移動するため、受傷部位そのものではなくやや下の位置に変色が現れることもあります。
なぜ「伸ばされながら縮む」瞬間に起きるのか
筋肉の収縮には3つのタイプがあります。短くなりながら力を出す「求心性収縮」、長さを保ったまま力を出す「等尺性収縮(関節を動かさずに力を入れる動き)」、そして伸ばされながら力を出す「遠心性収縮(ブレーキをかけながら伸びる動き)」です。
肉離れはほとんどの場合、「伸ばされながら縮む」遠心性収縮の瞬間に発生します。ダッシュで足を前に出す瞬間のハムストリング(太もも裏)、着地時のふくらはぎ——筋肉が「ブレーキをかけながら伸びている」状態に、限界を超える負荷がかかって断裂するわけです。
具体的なスポーツ場面で見てみましょう。陸上100mの場合、最も危険なのは加速後半(30〜60m付近)です。この区間ではランナーがトップスピードに近づき、足を前方にスイングする瞬間にハムストリングが最大限に伸ばされながら減速のブレーキをかけます。
サッカーでは、ボールを追って全力ダッシュしたあと急にスピードを変える場面、たとえばディフェンダーが裏に抜けた相手を追いかけ、方向転換する瞬間が高リスクです。

こうした遠心性収縮時の損傷を予防する方法として、近年注目されているのが「ノルディックハムストリングカール」というエクササイズです。スポーツ医学誌に掲載されたメタ分析※1では、この種目を定期的に行ったチームのハムストリング損傷率が最大51%低下したと報告されています。
こむら返り(足がつる)との違い
よく混同されますが、こむら返り(筋痙攣)と肉離れはまったく異なる状態です。
こむら返りは筋肉が勝手にけいれんする症状で、脱水や電解質(ナトリウム・カリウム・マグネシウム・カルシウム)の不足、神経の過興奮などが原因です。長時間の運動中に大量の発汗でこれらが失われたり、運動の後半で筋肉の神経疲労が起こったりすることで発生します。
こむら返りは強い痛みを伴いますが、通常は数秒〜数分で自然に治まり、組織の損傷はありません。
一方、肉離れは筋線維の物理的な断裂です。自然に治まることはなく、適切な対処をしないと回復が長引きます。判別のポイントは「ピンポイントで痛い場所があるか」「押すと痛い点があるか」で、あれば肉離れの可能性が高いです。
では試合中やランニング中にふくらはぎに突然痛みを感じた場合、どちらなのか。こむら返りであれば筋肉全体が硬く「つかまれている」ような感覚があり、ストレッチで緩和します。一方、肉離れは特定の一点に鋭い痛みがあり、ストレッチで痛みが悪化します。
また、受傷直後に力が入らない(筋出力の低下)場合は断裂を疑うべきです。判断に迷ったら無理に動かさず、翌日以降も痛みや腫れが続くようであれば整形外科を受診してください。
グレード分類——軽症・中等症・重症
| グレード | 損傷の程度 | 症状 | 一般的な回復期間 |
|---|---|---|---|
| I度(軽症) | 筋線維の微細な損傷 | 歩行可能、走ると痛い | 1〜2週間 |
| II度(中等症) | 筋線維の部分断裂 | 歩行に痛み、内出血あり | 数週間〜数ヶ月 |
| III度(重症) | 完全断裂に近い | 歩行困難、広範囲の内出血 | 数ヶ月(手術の可能性も) |

II度とIII度の境界は画像検査でないと正確に判別できません。歩行が困難な場合や広範囲の内出血がある場合は、まず整形外科を受診してください。
画像検査ではどのように見えるのでしょうか。MRIではI度損傷は筋肉内に薄く散在する「羽毛状の高信号」として描出されます。II度になると損傷部位に明確な血腫(出血のたまり)が見え、筋線維の一部が途切れていることが確認できます。III度では筋肉の完全な分離と大きな血腫が描出されます。
超音波(エコー)検査はMRIよりも手軽で、受傷直後の現場でも使えるため、初期評価に広く用いられています。
臨床でのグレード判定は触診と可動域テストだけでは不正確になりやすく、スポーツ医学誌の報告でも、触診のみの評価とMRI所見が一致しないケースが少なくないことが指摘されています。正確な重症度評価は治療計画と復帰時期の判断に直結するため、中等症以上が疑われる場合は画像検査を受けることが推奨されます。
好発部位と受傷シーン
- ハムストリング(太もも裏) — 陸上短距離・サッカーのダッシュ。スポーツ選手の肉離れでは最も多い部位です。特に大腿二頭筋長頭の筋腱接合部が好発部位。
- ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋) — テニス(テニスレッグ)、バドミントンの急な踏み込み。中高年の日常生活での発生も多く、腓腹筋内側頭の損傷が大半を占める。
- 大腿四頭筋(太もも前面) — サッカーのキック動作、バスケのジャンプ着地。大腿直筋が最も受傷しやすい。
- 内転筋(太もも内側) — サッカーのサイドステップ、スキーの開脚動作。長内転筋が多い。
スポーツ別の発生率を見ると、オーストラリアンフットボールでは全損傷の約16%がハムストリングの肉離れで、チームあたり年間6〜8件が発生しています※2。
サッカーでも欧州サッカー連盟の疫学調査によると筋損傷が全体の約31%を占め、そのうちハムストリングが37%と最多です※3。陸上短距離、ラグビー、アメリカンフットボールも高頻度の競技として知られています。
肉離れが起きやすい条件
肉離れは「運が悪かった」で片付けられがちですが、実際にはリスクファクターがあります。
- 筋柔軟性の低下 — 硬い筋肉は急な伸長に対する許容範囲が狭い
- 疲労の蓄積 — 連日の練習や試合で筋肉のコンディションが低下している
- ウォーミングアップ不足 — 筋温が低い状態では粘弾性が高く、断裂しやすい
- 筋力のアンバランス(対になる筋肉同士の力の釣り合い) — ハムストリングと大腿四頭筋の筋力比が0.6未満だとリスクが上がる。理想は0.6〜0.8です
- 過去の肉離れ歴 — 最大のリスクファクター。瘢痕組織(傷跡のかさぶたのようなもので、元の筋肉より硬い組織)が残っていると同部位の再発率が大幅に上がる
- 加齢 — 30歳を超えると筋肉の水分含有量・弾性が低下し始め、受傷リスクが上昇する。プロサッカー選手のデータでは30歳以上で肉離れ発生率が有意に高い※4
特に「過去の肉離れ歴」は最も強い危険因子として知られており、再発率は初回の2〜6倍とする研究もあります。
拮抗筋バランスについて補足します。簡単に言えば、太もも前面(アクセル役)と太もも裏(ブレーキ役)の筋力のバランスのことです。
太もも前面が強すぎて裏側が相対的に弱い状態では、ダッシュ時にハムストリングに過大な負荷がかかります。等速性筋力計で測定でき、プロスポーツのメディカルチェックでは受傷予防の検査として広く利用されています。
まとめ——肉離れとは何か
肉離れは、筋線維が急激な力で断裂するケガです。微細な部分断裂から完全断裂まで幅があり、ほとんどの場合「伸ばされながら縮む」遠心性収縮の瞬間に発生します。
こむら返りとは異なり、ピンポイントの圧痛と筋出力の低下が特徴です。好発部位はハムストリング・ふくらはぎ・大腿四頭筋・内転筋で、ダッシュやキック動作で多く発生します。
筋柔軟性の低下、疲労の蓄積、そして過去の受傷歴が主な危険因子であり、再発率は初回の2〜6倍にのぼります。肉離れは「運が悪かった」では済まされない、予防と正しい理解が求められるケガだということです。
監修
柄澤 玄宏(からさわ整形外科クリニック院長)
日本整形外科学会認定専門医。東京医科大学卒。
参考文献・ソース
- ※1 van Dyk N, et al. Including the Nordic hamstring exercise in injury prevention programmes halves the rate of hamstring injuries: a systematic review and meta-analysis. BJSM. 2019;53(21):1362-1370.
- ※2 Orchard J, Seward H. AFL Injury Survey. Australian Football League.
- ※3 Ekstrand J, et al. Epidemiology of muscle injuries in professional football (soccer). AJSM. 2011;39(6):1226-1232.
- ※4 Hagglund M, et al. Risk factors for lower extremity muscle injury in professional soccer. AJSM. 2013;41(2):327-335.




